
Research
魚類や頭足類(イカ・タコ類)などの水棲生物を対象に
繁殖戦略を中心とした進化生態・行動生態を研究しています
野外で観察される現象を起点とし
自然条件下におけるその意味を追究します
親による子の保護 (子育て) 行動
親による子の保護行動は子の生残や発育を高めることが目的ですが、その一方で保護には大きな負担(コスト)が伴います。そのため親はしばしば保護を放棄したり、自分の子を殺し、食べることさえあります。このフィリアルカニバリズム現象は子を保護する多くの魚類で確認されている一般的な現象です。本研究室ではイソギンポ科魚類のロウソクギンポを材料に、雄親が保護中の卵を全て食べてしまう全卵食行動の進化と発現メカニズム、特に脳神経・内分泌メカニズムの解明に取り組んでいます。
これまでの研究の最大の成果は、ロウソクギンポの全卵食現象が「子殺し」であることを検証したことです。従来の全卵食行動は、保護卵数が少ないと親が保護によって得られる利益(保護成功)よりも保護コストが大ききなるので、保護が割に合わなくなり、保護を途中でやめてしまう、というものでした。その際に卵を食べるのは、栄養利益が得られるからだと説明されていました。しかし、ロウソクギンポの雄親は保護をやめても巣の中に保護卵が存在すると、次の繁殖のための求愛活性を高める雄性ホルモンが上昇しないため、卵の存在を食べて消す必要があったのです。つまり食べる目的は栄養摂取ではなく存在を消すこと(殺すこと)だったのです。 → 研究詳細(Matsumoto et al., 2018; Current Biology)
親にとって保護中の子は何よりも大切な存在ですが、ある瞬間に保護から子殺しに行動が転換するのです。親の体の中でどのようにこのスイッチがオンになるのか、について研究を進めています。このメカニズムを解明することは、子殺し行動の進化だけでなく、動物の子育て行動の進化の理解にも繋がると考えています。
精子競争と代替繁殖戦術
魚類は体外受精種が多いので、ある雌が産む卵に複数の雄が放精して受精させようとする状況が多くの種で見られます。このような異なる雄の精子間で受精を巡って争う現象は精子競争と呼ばれます。雄の繁殖成功がまさに決定しようとするその間際の競争であるため、精子競争は行動や形態、生活史に至るさまざまな形質の進化に大きく影響します。本研究室では、ハゼ科魚類クモハゼを材料に、異なる繁殖方法を採用する雄間の精子競争によって進化したさまざまな形質について研究しています。
魚類では、雌を独占する優位雄の繁殖にこっそり忍び込んで受精成功を得る代替繁殖戦術「スニーキング戦術」を採用する雄の存在が多く種で知られています。クモハゼにも巣を占有して雌とペア産卵する「ネストホルダー雄」と「スニーカー雄」との間で受精を巡る激しい争いが起こり、その争いに有利になるさまざまな形質が進化しています。例えば、スニーカー雄は巨大精巣をもつほか、精子そのものが長寿で高速遊泳することが分かっています。ネストホルダー雄がスニーカー雄の精子を巣の外にヒレで煽り出す「精子除去行動」は、体外受精種では初めての精子除去行動となりました(Takegaki et al. 2020; Proc B)。
音響生態学的研究
魚類でもシログチやギギなど多くの種で音声を発することが知られているが、人が耳にする機会が少ないこともあり、陸上動物に比べると研究例が極端に少ない(鯨類では多い)。
クモハゼのオスはメスに求愛する際に、ミツバチの8の字ダンスのような行動ディスプレイを用いるが、これに加えて音声シグナルを発することが知られていた(張・竹村, 1989)。我々はこれまでにオスが複数の音声シグナルが存在すること、状況によってそれらを使い分けていることを明らかにしてきた(Mukae et al. 準備中)。これら音声シグナルと行動ディスプレイが、メスによるオス選択においてどのように機能しているのか、またその相対的な重要性を明らかにする研究に取り組んでいます。
また、生息場所の音響環境(騒がしい or 静か)が両シグナルの使用や強度にどのような影響を与えるかについても研究を進め、これまでにノイズが大きいと音声シグナルをより聞こえやすい音に変化させたり、音の変わりに行動ディスプレイの強度を高めるように調節していることが分かってきました(Kawaguchi et al. 準備中)。
認知生態・学習行動
多くの動物で,遠く離れた場所から自分の巣やなわばりに正確に戻る「帰巣性」と呼ばれる性質や,効率的に目的地に到達するための「ナビゲーション」と呼ばれる行動や仕組みが知られている。目的地にたどり着くには,目印(道標)を利用するか,目的地を含む環境下で自分がどこにいるかを把握しておく必要がある。このような能力を「空間認知能力」と呼び,その能力の高さは個体の生存や繁殖を有利にすると思われる。
潮間帯に生息するクモハゼは、50m以上離れた潮溜まりから元居た潮溜まりに正確に戻ってくる高い帰巣性を示すことが知られる。我々はクモハゼが高い空間認知能力を持つこと、そして水中だけでなく水上の情報も利用しているのではないかと考えました。これらを検証するために、水槽内で水中・水上の情報(標識)と報酬(エサ)を関連付ける学習実験を行っています。
頭足類の進化生物学的研究