top of page

長崎最西端 進化生態学セミナー 

2019年

第45回   1月 28日 (月)  

中原  亨(北九州市立自然史・歴史博物館(いのちのたび博物館))

「 風媒花の繁殖戦略〜草丈がブタクサの繁殖と性配分に与える影響〜」

要旨:雌雄同体植物の性配分は、個体のサイズに対する適応度曲線の形がオス機能・メス機能間で異なる場合にサイズ依存的に変化すると考えられている。風媒花の性配分は、しばしばサイズの増加とともにオス機能に偏る。風媒花においてこのような性配分が生じる理由の1つとして、「草丈」の増加が、より広く・遠くへの花粉散布を促進するため、草丈の増加に対するオス適応度曲線の飽和がメス適応度曲線よりも遅いことが予測されてきた。これを実証するには、相関のある草丈以外のサイズ効果を考慮した上で、草丈と雌雄の適応度指標の関係性を調べる必要がある。 風媒草本ブタクサの実験集団において、マイクロサテライトマーカーを用いた父性解析によって種子の花粉親を推定し、草丈・雄性花序長とオス繁殖成功の関係性を調べたところ、草丈が高いほど、また、雄性花序長が長いほど、オス繁殖成功が増加していた。その一方で、種子生産は草丈の影響を受けていなかった。これは、草丈の増加がメス機能よりもオス機能に作用し、オス繁殖成功の増加を引き起こすことを示唆している。これらの結果は、風媒花においてサイズ依存的な性配分が生じる条件を満たしており、草丈に依存した性配分変化の理論的予測を支持した。

 しかし、野外では食害や草刈りなどによって主茎の茎頂分裂組織が損傷を受け、伸長成長が阻害されることもある。このような場合には、主茎の伸長によって得られる「草丈の効果」は見込めない。圃場実験と野外調査によって主茎の伸長が阻害された場合のその後の成長と雄花数・雌花数を調べたところ、側枝の伸長によって草丈が補われ、性配分の変化は見られなかった。この結果は、風媒花における草丈の重要性を裏付けるものであった。

2018年

 

第44回   11月 27日 (火) 

 福田和也(名古屋大学大学院生命農学研究科)

「配偶システムの多様性を生み出す中枢調節機構を探る」

要旨:動物が繁殖する際に形作られる個体関係は配偶システムと総称され、これまでに多くの生態学的研究が個体の行動とその適応的意義に基づいて多様な配偶システムの進化的背景を説明してきた。ある配偶システムは繁殖に参加する各個体が利己的に行動する結末として形成されるため、配偶システムの多様化は個体の社会行動の多様化に起因する。しかし、選択圧を受けて実際に多様化したものの正体、すなわち社会行動を制御する至近的基盤については多くの部分が未解明である。近年、こういった動物の社会行動を制御する中枢調節機構について活発に研究が行われている。特に配偶システムの形成に関与する行動調節機構については齧歯類において詳細な研究が行われており、神経ペプチドバソプレシンおよびオキシトシンが中枢内で重要な役割を担うことが知られている(Young and Wang, Nat Neurosci, 2004)。これらのオーソログ(バソトシン: VT、およびイソトシン: IT)は多くの魚類においても社会行動に関与することが報告されているため(Godwin and Thompson, Horm Behav, 2012)、分類群を超えて配偶システムの多様化に関与している可能性がある。演者は、系統的に近縁であるものの異なる配偶システムを示すハゼ科魚類2種(カスリモヨウベニハゼTrimma marinae、一夫一妻;アオギハゼ T. caudomaculatum、一夫多妻)を対象とし、異なる配偶システムを導く中枢調節機構をVT、ITに注目して形態学的・解剖学的観点から調査している。機能面を検討した実験では、行動薬理的手法により一夫一妻関係の構築・維持にVT・ITが関与することを示した。さらに、組織学的調査から、脳内の視索前野におけるVT産生ニューロンの細胞体分布が種間で異なることが明らかになってきた。本セミナーでは、現在進行中の形態学的研究を紹介するとともに、究極因・至近因を繋ぐ学際的研究の意義についても議論したい。

 

 


第43回   9月 27日 (木)

 佐野香織(城西大学理学部)

「さかなの卵の進化  ~ 薄い卵膜と厚い卵膜  それを軟化する酵素と可溶化する酵素 ~」

要旨:脊椎動物の卵は卵膜(透明帯・卵黄膜・コリオン)に覆われており、外部の刺激から保護されている。中でも魚類の卵は一般的に親に保護されることなく自然界にさらされて生きてゆかなければならないため、哺乳類や卵殻を持つ鳥類と比べて卵膜は丈夫な構造物となっている。一方、胚は卵膜に保護されつつ発生し、ある発生段階に達すると今度はそれまで自身を保護していた丈夫な卵膜から脱出して孵化しなくてはならない。これは孵化時に胚が分泌する“孵化酵素”とよばれるタンパク質分解酵素が、タンパク質でできた卵膜を分解することで起こる。真骨魚類の進化過程における卵膜と孵化酵素の関係をみてみると、ウナギ目やアロワナ目など早くに誕生した種は薄い卵膜をもち、1種類の孵化酵素により卵膜を軟化して孵化することが知られている。一方、その後に誕生したメダカやサケなどが属する正真骨類の卵膜はとても厚い。正真骨類の卵膜は肝臓で合成されることが知られており、卵細胞自身が合成するウナギやアロワナと比べてたくさんの卵膜を合成できることがひとつの要因であると考えられる。ところがこのような厚い卵膜は孵化酵素で軟化しただけでは孵化することができない。厚くて丈夫な卵膜は胚の保護には優れているが、孵化できなければ元も子もないのだ。真骨魚類の進化過程において卵膜が肝臓で合成されるように変わった時期と同じくして、孵化酵素遺伝子の重複・多様化が起きたことが分かっている。その結果、正真骨類は2種類の孵化酵素を獲得し、それらによって厚い卵膜を可溶化して孵化する事ができるようになった。このように孵化酵素とその基質である卵膜タンパク質の進化的イベントが起きたタイミングは同調しているように見受けられる。真骨魚類の進化過程で卵膜と孵化酵素がどのように共進化してきたかをお話しする。

 また、魚類の中には母体内で受精および卵を保護する卵胎生魚や、受精後の卵を口内で保護する(マウスブリーダー)アロワナや、産卵巣で卵を保護するイトヨやロウソクギンポなど、親が孵化まで卵を保護する種も比較的多数存在する。それらの少し変わった卵膜や孵化酵素についても紹介する。

 

 


第42回  4月 18日 (水)

 曽我部 篤(弘前大学農学生命科学部)

「環境DNA分析を用いた水産資源管理への挑戦」

要旨:今般の環境DNA分析技術の発展と生物遺伝情報の蓄積により,専門的技能と労力を要する生物採取や種同定を行うことなく,希少種・外来種の検出や生物相・バイオマスの推定が可能になりつつある.本技術を水産の現場に応用することで,低コストな資源量推定,資源量変動に影響する生物学的要因(捕食,被食,資源競争や病原生物など)の検出とそれによる資源量変動予測が可能になると期待される.しかしながら,高精度の資源量推定・予測を行うためには,まだ多くの技術的・方法論的な障壁があり,単純な系における基礎的知見の蓄積が不可欠である.本セミナーでは,近年の環境DNA研究の動向を概説するとともに,十和田湖産ヒメマスの増養殖をモデルとして演者らが進めている研究を紹介する。

 

 

2017年

第41回  5月 16日 (火)

 牧口  祐也(日本大学生物資源科学部)

「サクラマスの雌が乱婚から享受する利益の検証」

要旨:サクラマス(Oncorhynchus masou)は降海型と残留型2つの生活史を持つサケ科魚類である。本種の繁殖行動は多くの場合一雌多雄で行われる。これを乱婚と呼ぶ。サクラマスは繁殖後に一部の残留型を除く全ての個体が斃死する一回繁殖型の魚類である。つまり、雌は繁殖において雄から餌を供給してもらうなど直接的利益を得ることは出来ない。そのため雌の繁殖成功には間接的利益を通した淘汰圧がかかると考えられる。これらの事実から雌は乱婚を行わずに質の良い雄1尾から確実に精子をもらった方が良いはずであるが、実際はそうではない。ここでサクラマスの雌は乱婚に何か利益を得ている可能性がある。そこで本研究では、サクラマスの雌が乱婚から得られる利益を検証する目的で、卵を受精させる雄の数または生活史タイプ(降海型または残留型)を変えて受精卵の発眼率との関連性を調べた。北海道標津川で捕獲した成熟個体を実験に使用した(ヤマメ雄27尾、サクラマス雄27尾・雌9尾)。まず供試魚の頭部を即殺する。その後体表面の水気をふき取り、精子は腹部から肛門にかけて手で軽く圧迫して採取し、体腔液は肛門から卵は腹部を切って掻き出した。採取した卵を均等な数になるようにタッパー分け、精子の組み合わせパターンに沿って精子を滴下した。その後10%体腔液をタッパーに注いで精子を活性化させて受精させた。1時間静置した後に受精卵を飼育棚に収容した。受精から24日後に死卵を除去し、最終的に71日後に孵化した稚魚、発眼卵および死卵の数をカウントした(その際、孵化して仔魚になっているものは発眼したものとして発眼卵にカウントした)。産卵行動に参加する雄の数が多くなるほど発眼率は有意に高くなった(Tukeyの多重比較、P<0.05)。また、サクラマスのみの場合やヤマメのみの場合よりもサクラマスとヤマメ両方存在する方が発眼率は有意に高くなった(Tukeyの多重比較、P<0.05)。本研究の結果より、サクラマスの雌はヤマメとの乱婚によって発眼率が上がるという間接的利益を享受していることが示された。本発表では、さらに降海型と残留型雄の精子運動性能の違いについてもあわせて紹介する。


第40回  3月 30日 (木)

 川口  将史(富山大学医学部)

「ヨシノボリ属の交配前隔離を制御する神経基盤」

要旨:ハゼ科に属するヨシノボリには、国内だけで15種近い近縁種が確認されている。これらの近縁種は、河川内で同所的に生息している場合があるにも関わらず、それぞれ遺伝的に独立した状態を維持している(Mizuno et al., 1979; Yamasaki et al., 2015)。お見合い実験を行うと、ヨシノボリの雄は同種の雌に求愛する一方、別種の雌には攻撃することから、ヨシノボリ属の種間では交配前隔離が確立していることがわかっている。しかし、ヨシノボリの雄が雌を識別する際の鍵刺激は何か、また、雌を識別して正しい行動を選択する時、雄の脳の中で何が起こっているのかについては、明らかになっていない。そこで、交配前隔離を制御する神経基盤の解明を目指し、ヨシノボリの雄が雌の種を識別する際に主要に働く感覚と、識別に伴う行動選択に関わる神経回路の同定を試みた。

 河川で捕獲したヨシノボリを飼育し、実験水槽内で野外と同じ求愛行動を惹起する系を構築した(Kawaguchi et al., 2012)。雄が入った水槽の前に雌の入った水槽を提示しても、雄は雌の種を識別して正しい行動を選択したことから、雌の識別には視覚情報が重要であることが示唆された。最初期遺伝子c-fosの発現を指標として神経活動の履歴を解析した結果、視覚情報の処理に関わる神経回路(中脳視蓋と終脳背側野側部)が、求愛した雄と攻撃した雄のいずれでも活動していることがわかった。さらに、脳全体でc-fosの発現パターンを網羅的に探索した結果、求愛した雄の脳で特異的に活動する領域として、1) 求愛行動の中枢として知られる視索前域とその上流にあたる終脳腹側野、2) ホルモン分泌の中枢である下垂体と視床下部が見いだされた。また、視索前域・下垂体・視床下部で観察された活動パターンはエストロゲン受容体α陽性細胞の分布と類似していた。このことから、性ホルモン応答性の神経細胞が脳の中で巨大な回路を構築しており、求愛行動の実行に関わっていることが予想された。


第39回  3月 21日 (火)

 佐藤  成祥(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)

「射精量は交尾後配偶者選択によってどの程度コントロールされるか?~ヒメイカにおけるCFCの進化~」

要旨:数多くの精子競争や密かな配偶者選択(Cryptic Female Choice: CFC)の研究によって、性選択が交尾後にも生じている事は今では多くの人に受け入れられるようになった。しかし、これらがどのような過程を経て進化し、維持されているのかについて迫った研究は少なく、特に検証の難しいCFCについてはその多くが謎に包まれている。CFCは雄からの望まぬ交尾に対する抵抗手段として生じたのか、それとも交尾前の過程とは別の積極的な配偶者選択の手段なのだろうか。演者は、飼育実験が容易で、精子の受け渡しが直接観察できる世界最小の頭足類:ヒメイカを対象にこれまで繁殖生態の研究を行ってきた。本講演では、本種の雌が交尾後の精子排除によって雄の射精量をどの程度コントロールできるのか検証した研究について紹介する。また、CFCが進化した原動力として捕食リスクを想定し、両者の関係性を調べた飼育実験の話も交え、何故ヒメイカでは交尾の後に雄選びをするように進化したのか議論したい。

 

 


第38回  1月 30日 (月)

 和田  年史(兵庫県立大学/人と自然の博物館)

「頭足類の繁殖行動生態 -特にタコ類の繁殖行動の特徴に着目して-」

要旨: 頭足類(イカ・タコ類)は無脊椎動物の中で最大の脳を持ち、知の基盤に基づいた多様で複雑な行動様式を示す。さらに、沿岸性の頭足類の多くがわずか1年の短い寿命で、進化速度も比較的早いとされる。本発表では、ヤリイカやコウイカなどのイカ類の繁殖行動や交接戦術の特徴を紹介してから、それらと対比する形で、タコ類の繁殖行動の特徴に着目する。イカ類に比べて遊泳力の乏しいタコ類は、特定の生息環境に適応した高い擬態能力や空間認識能力を有するが、小型種の形態分類や水槽内での長期飼育の難しさなどから、国内での詳しい研究はほとんど行われていない。本発表では、国内における浅海性タコ類の多様性研究の停滞状況についても紹介したい。

 

 

 

2016年

 

第37回  9月 30日 (金)

 西海  望(長崎大学院水環)

「天敵遭遇時のトノサマガエルにおける、静止と逃走の適応的な行動切り替え」

要旨: 隠蔽能力の高い動物は、捕食者に対して静止するか或は逃走することによって捕食を回避していることが多い。静止することには捕食者に探知されにくくなるという利点がある反面、捕食者の接近を積極的に避けられないというリスクがある。他方、逃走することには捕食者の追跡を振り切りやすくなるという利点がある反面、その動きが目立つことによって捕食者に探知されやすくなるというリスクがある。これら背反する行動の適応的な切り替え方について、既に理論が発表されていたが、実証的な根拠に乏しい状態であった。そこで演者らは、トノサマガエルとその捕食者となるシマヘビを実験下で対面させ、静止から逃走へ切り替えるタイミングと生残性を調べた。その結果、トノサマガエルはまず静止しシマヘビに近づかれてから逃げ始めることが確認された。この切り替えタイミングは、理論上では生残性を下げると予測されていたが、実験で検証したところ生残性を上げていることが明らかとなった。このタイミングが生残性を上げる要因として、近距離で静止していても捕食者の探知を逃れられないことと、近距離で逃走すると捕食者を驚かす効果が生じることが考えられた。これらの要因を従来の理論に適用すれば、より現実的な行動予測が可能になると示唆された。

 


第36回  2月 29日 (月)
 河端雄毅(長崎大学院水環) 

 「最適逃避方向理論:動物種・実験条件によって異なる逃避方向パターンを統一的に説明できるか?」
要旨: 捕食等の危険に曝された際に動物が逃げる方向(逃避方向)に関して多くの記載的研究がなされている。その逃避方向のパターンは、常に危険に対して180度前後の方向に逃げるもの、危険を察知した際の体の向きに近い方向に逃げるもの、頻度分布に2つ以上のピークが見られるものなど様々である。興味深いことに、同じ動物種においても実験条件が異なれば、異なる逃避方向パターンが見られることもある。では、これらの多様な逃避方向パターンを理論的に説明することは可能なのだろうか?
 これまでの幾何学モデルに従うと、危険からの距離を最大にする逃避方向は危険の接近速度と逃避速度によって1つに決まると予想される。しかし、これまでのモデルには、「危険に対する体の向き」と「方向転換にかかる時間」が組み込まれていない。危険の方向に体が向いていれば、方向転換してから逃避しなければならないが、方向転換している間に危険は近づいてくる。そのため、方向転換することと移動を開始することの間にトレードオフの関係が存在する。
 以上を踏まえて、「危険に対する体の向き」と「方向転換にかかる時間」を組み込んだ独自の最適逃避方向モデルを開発した。まず、そのモデル内のパラメータを変化させることで上記の異なる逃避方向パターンが得られることを明らかにした。続いて、15例10種の動物の逃避方向データを過去の文献から抽出し、最適逃避方向モデルと混合正規分布モデル(先行研究で推奨)に当てはめた。その結果、最適逃避方向モデルの方が実際の動物の逃避方向をより上手く説明できることが分かった。以上から、1.多くの動物は危険からの距離を最大にするように逃避方向を決定していること、2.動物種・実験条件によって運動等のパラメータが異なるために多様な逃避方向パターンが見られることが示唆された。 

 発表では、この理論が基礎行動学だけでなく、水産学・生態学・生理学分野においても重要な知見であることを併せて紹介する。

 

 


第35回  1月 19日 (火)
 山口 幸(神奈川大学工学部) 

 「矮雄をもつ海洋生物における雌雄性の進化ゲーム:有柄フジツボ類を例に」 
要旨: 有柄フジツボ類には、同時的雌雄同体や雌、それらに比べて体がとても小さな雄(矮雄、わいゆう)といった様々な性がみられる。その多様な性表現をもたらす生活史戦略の違いを説明するためのゲームモデルについて発表する。
 幼生が基盤に定着すると小型個体になり、すぐに矮雄として繁殖することと、未成熟で成長を目指すことの選択ができる。後者は後に、大型個体に成長するし、雄としての繁殖機能と雌としての繁殖機能に資源を投資する。新規加入幼生が小型未成熟個体になる割合と大型個体の性配分が適応的に進化すると考えた。定常的な集団の場合、幼生の新規加入と定着個体の死亡とでバランスした集団の構成比になり、個体の戦略も時間とともに一定である。進化的に安定な個体群を調べると、環境に餌が多く成長が速いときには、新規加入幼生は矮雄にはならず全員が大型個体へと成長し、そして同時的雌雄同体になる。これに対して、環境に餌が少なく成長が遅いときには、一部の個体が矮雄になり、残りの個体が成長する。成長した大型個体は雄機能を示さず雌になる。つまり集団は雌と矮雄の共存状態になる。定常的な集団では、どのようなパラメータでも、矮雄は同時的雌雄同体と共存することがなかった。

 しかし、実際には同時的雌雄同体と矮雄の共存が見られる。そこで、定着基盤がカニの甲羅といった不安定な場所の場合を考えてみた。戦略が生息地の齢に依存するので進化的に安定な解を動的計画法で計算する。すると進化的に安定な個体群の構成は、生息地の齢に応じて、同時的雌雄同体のみ、同時的雌雄同体と矮雄の共存、雌と矮雄の共存へと変化することがわかった。

 

 

2015年


第34回 10月 26日 (月)
 廣田 峻(九州大学持続可能な社会のための決断科学センター) 

 「アゲハチョウ媒からスズメガ媒への進化: F2雑種を用いた実験送粉生態学」

要旨: 種子植物は,色や匂い,形,開花時間など多様な花形質が見られる。このような花の多様化メカニズムのひとつに,送粉者シフトが挙げられる。ある花形質の変異で送粉者シフトがおこれば,他の形質においても新たな送粉者への適応が起こり,種分化に繋がる。送粉者シフトを介して花が様々な送粉者に適応してきた結果,現在みられる花の多様性が形作られたと考えられている。どのような変異が送粉者シフトをもたらすのだろうか?この疑問に答えるために,キスゲ属の2種,ハマカンゾウとキスゲを用いて研究を進めてきた。前者が祖先型,後者が派生型とされる。ハマカンゾウは主にアゲハチョウに送粉される。朝開花・夕方閉花という昼咲きの形質を持ち,花香が非常に弱い赤花をつける。一方,キスゲは主にスズメガに粉される。夕方開花・翌朝閉花という夜咲きの形質を持ち,甘く強い香りの黄花をつける。この2種を交配した雑種F2世代では,親種とは異なる形質セットが出現する。そこで,ハマカンゾウを祖先種,雑種株を変異個体に見立て,祖先種集団に黄花や花香をもつ変異個体が出現した種分化初期状態を模した実験集団を設置し,変異株が集団中に拡大できうるか,送粉者の訪花頻度や送粉効率から検証した。その結果,アゲハチョウは赤い花色や弱い匂いは安定して選択した。一方,スズメガは日和見的でその選好性は実験集団の状況により変化した。このような異なる選択圧の下でどのようにしてアゲハチョウ媒からスズメガ媒への送粉者シフトが起こったのか議論したい。


 

第33回 10月 6日 (火)
 中西 希(琉球大学理学部)

 「東アジア島嶼間におけるベンガルヤマネコの採餌生態と頭骨形態比較」

要旨:ベンガルヤマネコは小型ネコ科の中で最も広域に分布し、生息域は熱帯から亜寒帯まで多様な環境に生息している。また本種の生息環境の多様性に反し、多くの個体群で主に齧歯類を摂食していることが報告されている。しかし、本種の一亜種であるイリオモテヤマネコは、在来齧歯類が生息しない小島嶼に数万年に 渡り個体群を維持しており、様々な動物を摂食する特異な食性を示す。また、かつてその頭骨形態から新属新種として記載されたことから伺えるように、イリオモテヤマネコの頭骨は他個体群と異なる様相を呈している。そこで東アジアの台湾、西表島、対馬の3個体群を対象とし、採餌生態と頭骨形態の比較を行い、イリオモテヤマネコ頭骨の特異性とその要因を明らかにすることを目的とした。胃内容物と糞内容物を用いた食性比較の結果、イリオモテヤマネコは他の2 個体群に比べ硬い鱗を持ち咀嚼するには多数回噛まなければいけない爬虫類を高頻度で捕食していることが明らかになった。また、頭骨形態ではイリオモテヤ マネコは獲物を噛み切るための臼歯を強く動かす咬筋が他の2個体群より発達していた。これらの結果からイリオモテヤマネコは台湾や対馬の個体群よりも爬虫類をより多く捕食することにより、咬筋を発達させ、他の個体群とは異なった頭骨形態を持つことが示唆された。

 

 

第32回 6月 2日 (火)
 三品 達平(京都大学理学研究科・博士後期1年) 

「有性無性の生殖サイクルを介した希な遺伝子流動が促進する雌性発生3倍体フナの多様化」

要旨:無性生殖種は組換えを欠くため進化可能性が低く、進化的に短命とされる。身近な淡水魚であるコイ科フナ属には倍数性多型が知られ、有性の2倍体(2n)、無性生殖の一種、雌性発生の3倍体(3n)が多種多様な環境で共存する。この 3nにはクローン性に反し,顕著な形態的•遺伝的多様性がある。この多様性創出機構を解明するため、日本•大陸から採集した2,000個体以上のフナについて、マイクロサテライト、従来法・次世代シーケンサーで取得したミトコンドリア・核 DNA 塩基配列に基づき分子系統•集団遺伝解析を行った。マイクロサテライトと多数核遺伝子座による系統•集団遺伝解析の結果、日本の3nは日本と大陸フナの異質倍数性で、単系統だった。一方、2nと3nは多様なミトコンドリアDNAハプロタイプを共有した。これらの結果は、雌性発生3nが有性・無性の生殖サイクルを介し、2nから稀な核・ミトコンドリアDNAの遺伝子流動を受けることを示唆する。これが3nフナの進化可能性の増大と、多様化を促進した可能性がある。

 

 

第31回 4月 23日 (木)
 藤本 真悟(琉球大学大学院理工学研究科・博士後期課程) 

「メダカにおける性淘汰圧の緯度間変異」

要旨:高緯度の種/集団では、各個体は一年の中で好適な短い期間に集中して繁殖する。演者は、高緯度では繁殖可能な雌雄が短期間に同調して出現するため、実効性比の偏りが小さくなり、ゆえに性淘汰圧が弱まると考えている。反対に、低緯度では繁殖可能メスの重複出現が確率論的に少なくなる上に、繁殖可能オスは年間を通じて出現するため、実効性比の偏りが助長されるだろう。低緯度(沖縄)と高緯度(青森)のメダカ野生集団間で、年間を通じた繁殖可能個体の出現割合を追跡・比較することで、この仮説を検証した。沖縄では、繁殖可能なメスの出現は3月から10月まで続いたのに対し、オスは一年を通じて繁殖可能な個体が見られた。対照的に、青森では、繁殖可能なメスの出現は5月から7月に限られており、繁殖可能なオスの出現もこの時期に集中していた。結果として、沖縄より青森の集団の方が、繁殖期間における実効性比の偏りが小さい傾向にあった。これまでのメダカに関する研究から、沖縄より青森の集団の方がオスの二次性徴が隠微で性的二型の度合いが小さいこと、青森のオスは闘争にも求愛にも消極的であること、そして青森のメスはオスに対する選好性が弱いことがわかっている。これらの事実はいずれも、青森集団の性淘汰圧が沖縄集団より弱いことを強く支持する。

2014年

第30回 12月 12日 (金) 
 後藤 晃(北の川魚研究所・元北海道大学) 

「淡水カジカ類に見られる2つの適応放散」

要旨:生活史の全部、あるいは一部を淡水域で生活するカジカ上科魚類を、一般に淡水カジカ類と総称する。彼らは海産カジカ類の祖先種を起源として、多系統的に淡水環境で適応・進化した生態的グループである。その生態的グループは北半球の冷温帯から寒帯の広い陸水系で水平方向に適応放散したカジカ属とその近縁種(2属約80種)、および東シベリアに位置し、世界でもっとも古く(約3千万年前)、もっとも深い淡水湖(1,640m)であるバイカル湖で主に垂直方向に適応放散したカジカ類(通称、バイカルカジカ類:3科12属33種)である。この2つのグループの適応放散プロセス、生活史多様性の創出と進化史について紹介する。

 


第29回 11月 22日 (土) 
 安房田 智司(新潟大学 理学部 佐渡臨海実験所 ・助教) 

「魚類精子多様性の進化要因を探る」

要旨:精子は極めて多様な形や大きさをしており、精子多様化の進化要因の理解は生物多様性の創出機構の理解に非常に重要である。精子多様化の 進化要因は複数挙げられるが、特に、「受精環境」と「精子競争」が精子特性(形態や運動性など)の多様性を産み出す大きな要因だと考えられている。しかしながら、これらの関連性をしっかりと示した研究は少ない。本セミナーでは、私たちが現在行っているシクリッド科魚類とカジカ科魚類における精子の種間比較の研究について、いかに「受精環境」および「精子競争」が精子特性と関連しているかについて紹介する。

 


第28回  6月 27日 (金) 
 岩田容子(東京大学大気海洋研究所・ 学振PD)

「行動から配偶子まで:ヤリイカ代替繁殖戦術における分断性選択」

要旨:ヤリイカの雄には、雌とペアになり雌の輸卵管に精子を渡す大型ペア雄と、ペアに割り込み雌の口周辺に精子を渡す小型スニーカー雄、とい う代替繁殖戦術がみられる。本種の代替繁殖戦術は、選択する戦術により雌の体内と体外という全く異なる場所に精子を受け渡すという希有な特徴 があることから、各雄の精子は、受精をめぐる精子間競争や交接から受精に至るまでの物理的・生物的環境において、異なる制約を受けることにな る。演者はこれまで、このような特徴が雄の繁殖形質に与える影響を調べてきた。その結果、精子に関連した様々な形質において、明確な雄二型が あることがわかってきた。本セミナーでは、類似した代替繁殖戦術を持つ日本と南アフリカのヤリイカ類2種の比較から、雄二型を導く分断的な交 尾後性選択の強度について議論したい。

 


第27回  5月 29日 (木) 
 阿見彌 典子(北里大学海洋生命科学部・ 講師)

「神経ペプチドから探る魚類の摂食調節機構の多様性」

要旨: 摂食行動は個体の生命維持に欠くことのできない重要な本能行動である。摂食行動を調節する神経ペプチドは視床下部で数多く同定されており、これら神経ペプチドを含有するニューロンは脳内で複雑な神経ネットワークを形成している。また、神経ぺプチドは複数の作用を有することが多く、硬骨魚類には摂食調節に加えて体色調節作用を有する神経ペプチドが存在する。したがって、魚類の摂食調節機構の解明には、摂食と体色調節との関連を明らかにする必要がある。さらに、これら神経ペプチドは生殖機能を制御する神経ペプチドとも関連することが示唆されている。本セミナーでは、神経ペプチドから探る「摂食と体色および生殖との関係」と、そこから生じる「魚類の摂食調節機構の多様性」について紹介したい。

 


第26回  4月 21日 (月) 
 宗原弘幸(北海道大学臼尻水産実験所・准教授)

「堤防に高密度で集まるアイナメの繁殖生態」

要旨:よく見かける生き物たちは、ヒトが作り出した工・農作物や廃棄物を利用して繁栄している。このことは、陸上においては、よく知られている事実で、カラス、スズメ、ネズミ、キツネなど、身近な『野生動物』は、みな『人間社会の恩恵』を受けている。さすれば、海はどうであろうか。総延長世界第6位を誇る日本の海岸線は、『護岸』という虚名のもと、その40%が人工化された。これほどまでに開発された沿岸域である。見えないだけで、恩恵を受けている魚たちがいて不思議はない。

 北海道では、新聞のレジャー欄にある磯釣りコーナーをみると、アイナメやカジカの仲間が必ず登場する。彼らは繁殖期になると、岸寄りし活発な索餌活動をする。しかも種によって繁殖期が違うため、なにがしかの釣果が年中掲載される。実は、こうした仲間の多くは、工作物を隠れ家や繁殖場所として巧みに利用している魚たちである。

 北海道大学臼尻水産実験所の脇には、道内の漁港では初めてという屋根付き堤防が建造され周囲を威圧している。幅10m延長230m、高さも10m近くあり、廃屋同然の実験所と見比べると、田舎の一漁港には、ご立派過ぎる、と正直思う。それでも代え難い人命のために必要と判断された建造物であるので、目立った成果が上がらない大学の実験所が税金の使い方を声高に批判しても世論は味方しない。

 戯れ言はさておき、この堤防は、砕石を入れた数百袋の大きな化学繊維の網袋とその上に沈められたテトラポットで支えられ屹立している。袋の口を縛ると結い目ができる。そこがアイナメに気に入られた。砕石の網袋は堤防を屋根付きにした平成14年に投入された。それまではテトラポットにたまに見かける程度だったので、網袋を使う工法が試されて、急にアイナメが集まりだした。こうした姿は、環境変化の荒波をくぐり抜け、したたかに生きる『野生生物の生態』であるが、人間によって『歪められた自然』に適応した結果であると言うことも忘れてはならない。

 今回のゼミでは、堤防で継続調査中の野生のアイナメの繁殖生態、特にこれまで知られていなかった回帰性について報告します。

 

 

2013年 


第25回  12月 3日 (火) スペシャル2部構成
 木村幹子(対馬市島おこし協働隊)

第1部: 「ゲノム排除による生殖隔離:アイナメ属の半クローン生殖」

要旨:北海道南部には亜寒帯性種のスジアイナメと温帯性種のクジメやアイナメの分布が接して形成された交雑帯があり、そこではスジアイナメを母親、クジメやアイナメを父親とする一方向性の交雑が生じている。雑種は全てメスで繁殖力を有し、父方の親種と頻繁に戻し交配しているにも関わらず、交雑帯ではF1型の雑種しか出現せず、種間の遺伝子浸透は全く生じていなかった。雑種と親種との人為的な戻し交配により得られた仔魚の遺伝子型、核型および倍数性を調べた結果、父親種との交配による個体は母親と同じF1型の2倍性ヘテロ接合体となったが、母親種のスジアイナメとの交配による個体は、スジアイナメのみのゲノム組成を示した。このことから、雑種が卵形成時に父方ゲノムを排除して母方ゲノムのみの半数体の卵をつくり、そして半数体精子と受精して再び2倍体の仔魚が生まれることが明らかになった。母方ゲノムはクローンとして次世代に伝わるが父方ゲノムは世代ごとに入れ替わることから、この生殖様式は半クローン生殖と呼ばれている。半クローン生殖は、これまでにカダヤシの仲間など3つの雑種系で知られているが、海産魚類での発見は本研究が初めてである。

 一般にクローン生殖は、組換えによる遺伝的多様性の創出機構を欠いているため、進化的に短命であると言われている。しかし半クローン生殖では、有性生殖する父方種のゲノムを体細胞に取り込むため、遺伝的多様性の減少を補うことが可能である。またスジアイナメゲノムにとっては、雌しか産まない雑種の中に半クローンとして存在している方が、高い増殖力を期待できるだろう。本セミナーでは、スジアイナメ半クローンによる有性生殖種への遺伝的寄生ともとれる、この生殖様式の進化的意義、有性生殖種との共存機構などについて、議論したい。

 

第2部: 「生物多様性保全と持続可能な社会づくり」

要旨: 生物多様性の保全のためには、人間は経済活動を抑制し、不便な生活を強いられなければならないのでしょうか?本来、生物多様性とは、人に恵みを与え、暮らしの豊かさを生み出すものです。本セミナーでは、対馬の伝統的な暮らしと生物多様性との関わり、里地里山の生物多様性保全の取組み紹介を通じて、生物多様性とは何かを学び、その減少要因としての地域の衰退、生物多様性を活用した地域振興の在り方、持続可能な社会づくりなどについて考えます。

 


第24回  10月29日 (火)
 三宅優子(長崎大環東シナ海環境資源研究センター・博士研究員)

「メスからオスへと変わる魚類の性転換メカニズム:分子生物学的アプローチ」

要旨: 性転換は硬骨魚類で多く見られる繁殖戦術の1つである。これまでの魚類の性転換研究は行動学、組織学、生理学を中心におこなわれてきたが、性転換のメカニズムには未だ不明な点が多く残されている。この謎を解明するためには分子生物学的アプローチが不可欠である。本セミナーでは、先行研究で明らかになった性転換メカニズムと演者らがおこなった分子生物学的手法による研究例について紹介する。

 

 


第23回  5月10日 (金)
 竹下文雄(長崎大院水環・学振PD)   

 「海産甲殻類ワレカラ属の対立関係における行動・形態の機能」

要旨:海岸で海藻を手に取り、目を凝らして良く見ると、意外にもそこに様々な生物を発見することができる。ワレカラ属 (Caprella) もそのような基質上に生息する体長数センチほどの甲殻類の仲間である。発表者は、本属の雄間闘争・雌雄間対立・雌による子の防衛といった3つの異なる対立関係について研究を行ってきた。本属の雄は産卵間近の雌をガードする交尾前ガードを行う。このガードペアと単独雄が遭遇すると、雄同士は雌をめぐって激しく闘争する。また雌雄がガードを形成する際、雄の接近に対し、雌は逃走する。さらに本属の一部の種では、幼体を保護する雌は同種や他種の個体を排斥する。発表では雄によるガード行動や雌の抵抗行動、闘争において武器として使用される第2咬脚に着目し、これらの形質が上記3つの対立関係の中でどのように機能し進化してきたのか議論したい。


 


第22回  4月 17日 (水)
 高橋宏司(京都大学フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所・博士研究員)   

 「魚だって学習する!〜学習能力の個体発生,観察学習および栽培漁業への応用〜」

要旨:学習とは,経験や観察の結果として生じる行動の変容であり,動物が生活する中で適切な行動を習得するために不可欠である.魚類も生活史において重要な行動を学習によって獲得しており,学習能力は生残に重要な能力の一つとなっている.魚類の学習研究の多くは,入手や飼育の簡便さから淡水魚が用いられており,魚類の半数以上を占める海産魚における研究は未開拓である.海産魚の多くは,生活史の過程で大規模に生態を変化することから,学習能力と生活史の関係を探る上で適している.また,広い水域で生活するため巨大な群れを形成する種が多く,社会行動における学習の機能を研究する材料として好ましい.そして,いくつかの水産重要種では,海産魚の学習研究は水産学分野へと応用できる可能性も秘めている.本発表では,食卓で馴染みの深い海産魚達を対象として,学習能力の個体発生,社会学習のメカニズムおよび学習を利用した放流魚の訓練方法について紹介する.

 


第21回  2月 28日 (木) 
 中田兼介(京都女子大学・准教授)   

 「クモの体色変異の季節変化と採餌生態」

要旨: 円網性クモには目立つ体色・模様を持つ種がしばしば見られ、その機能として、餌昆虫を視覚的に誘引して採餌効率を高くしている可能性が示唆されている。一方、体色に大きな変異が見られる種もあり、ギンメッキゴミグモ(Cyclosa argenteoalba)もその一つである。本種の背面は銀地に黒斑を持ち、黒色部の面積が20~100%と個体間で異なる。また本種は五月から十一月の活動期に二ないし三世代を繰り返すと考えられており、黒色度の強い個体の集団内での比率が春から夏にかけて増大し秋にかけて減少するという季節変化を示す。本種における体色と採餌生態との関係については、黒色度の強い(人の目には)目立たない個体が銀色で目立つ個体より多くの餌を捕獲するという先行研究とは逆の関係が見られている。一方採餌場所選択に関して、黒色度の強い個体は直射日光の当たらない場所にしか造網しないのに対して、銀色の個体ではそのような制約は見られない。これは体色が高温耐性に影響しているためと考えられる。このことから、春季には多くの餌を捕獲できる事から高かった黒色個体の適応度が、夏季に採餌場所選択の制約がより強くなることで下がり、結果として集団の平均黒色度の季節変化を生じさせている可能性が示唆される。

 

 


第20回  2月 1日 (金) 
 片平浩孝(広島大院生物圏・博士後期課程3年 学振DC1)  

 「寄生虫を見れば魚の生態がわかる!? ―ニホンウナギにおける試み―」

要旨: 「寄生虫」と聞くと、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるだろうか。怖い?気持ち悪い?悪いヤツ?—良い言葉がでることはおそらく無いと思う。しかし、マイナスのレッテルを貼る前に、是非知って頂きたいことがある。それは、寄生虫が長い進化的歴史の中で宿主と密接に関わり合いながら今日まで生きながらえてきた生物であるということだ。現在我々が目にすることのできる寄生虫は、目的の宿主に確実にたどり着けるよう、その宿主の生息場所やエサに合わせた生活史を獲得した者、あるいは獲得しつつある者達と言える。このように、寄生虫には「宿主の情報」がつまっているため、寄生虫の生活史(どこにいてどうやって暮らしているのか)を調べることは、同時に、宿主の生活を調べることにもつながる。本発表では、寄生虫が「宿主に害をもたらすただの嫌われ者」ではなく「役に立つ生物」として魚類研究に利用されてきた歴史を簡単に紹介するとともに、演者のこれまでの寄生虫調査から垣間見えてきたニホンウナギの生態について議論したい。

 

 

 

2012年 

 

第19回  12月 21日 (金) 
 大庭  伸也(長崎大学教育学部・准教授)

 「コオイムシ科昆虫における父親による子の保護の進化:性淘汰仮説の検証」 

要旨: 節足動物では,オスが単独で卵の保護を行うのは一部の種である。これはなぜだろうか。近年,この謎を解明する魅力的な仮説が注目されている。それは,オスによる卵保護が性淘汰を通じて進化したという仮説である。この性淘汰仮説では,メスは単独オスよりも既に卵保護をしているオスを好むと予想される。しかし,節足動物を用いてこの予想を実証した研究はわずかしかない。本研究では,オスが卵保護を行う代表的な分類群であるコオイムシ科昆虫を材料に,卵保護オスに対するメスの産卵選好性を室内配偶実験と野外操作実験により検証した。本セミナーではこれらの実験結果を紹介し,コオイムシ類におけるオスの卵保護進化に対する性淘汰仮説の妥当性について考察する。

 

 


第18回  10月 23日 
 二見  恭子(長崎大学熱帯医学研究所・助教)

 「 蚊を追いかける日々」

要旨:マラリアは未だ世界で最も重要な蚊媒介性感染症の一つである。ヒトマラリアはハマダラカ属(Anopheles属)の蚊によってのみ媒介されるため、ハマダラカのコントロールはマラリア根絶への重要な手段である。マラリア流行地におけるマラリア媒介ハマダラカの生態学的、遺伝学的研究が求められているが、流行の中心地であるアフリカや東南アジアの発展途上国では、媒介蚊の正確な分布情報さえ明らかにされていない。演者は、アフリカで重要なマラリア媒介蚊であるAnopheles gambiaeとAn. arabiensisの分布調査をケニアで行ってきた。それらの結果および過去の報告から、両種の分布予測地図を作製している。本講演では、2種の分布予測の結果を含めたこれまでの研究を紹介するとともに、ケニアの様子や昆虫媒介性感染症についても紹介したい。

 

 


第17回  8月6日 
 横内   一樹(長崎大院環東シナ海環境資源研究センター・学振PD) 

 「降河回遊魚ウナギ属魚類の回遊多型とハビタットシフト」 

要旨:ニホンウナギにとって, 通し回遊行動はその生態の根幹をなす.外洋の産卵場と淡水の成育場の間で展開される数千キロもの回遊現象は, 魚類の中でも他に類を見ない生活史イベントである.さらに近年, 耳石の微量元素分析から,ウナギの回遊生態は従来いわれてきたような単純な降河回遊型(川ウナギ)のみではなく, 成育場として河口域および海域を利用する,それぞれ河口ウナギ・海ウナギが存在し, 成長期の間に川と海の間でハビタットシフトする個体も出現することが明らかとなった.つまり, ニホンウナギの回遊は多様な変異と柔軟な可塑性をもち, その生活史には様々な多型が生じているものといえる.本発表では,講演者のこれまでのウナギ回遊多型に関する研究を紹介し,回遊多型の生態学的意義とその進化について議論したい.

 

 


第16回  5月11日 
 佐藤  成祥(長崎大院水環・学振PD)

「交尾後の配偶者選択によるヒメイカ雌の選好性:世界最小イカは小型が“密かに”モテる」

要旨:交尾した後で受け取った精子の中から好みの相手の精子を受精に使用する。従来の配偶者選択とは異なる、雄には分からない交尾後の雌による配偶者選択をCryptic Female Choiceと呼ぶ。一般的な動物において、この過程は雌の体内で行われるために検証が難しいとされているが、イカのように体の外で精子の受け渡しをする生物は絶好の研究対象生物である。世界最小の頭足類(イカ・タコ)であるヒメイカでは交尾(交接)によってせっかく渡された精子塊をメスが捨ててしまうことが演者らの観察によって明らかになった。本発表ではヒメイカがこの精子塊排除行動を通してどのような雄選びを行うか、この行動はCryptic Female Choiceか、演者らの研究を紹介するとともに、その可能性を議論する。

 

 


第15回  3月16日 
 門田   立(西海区水産研究所・研究員)

 「一夫多妻魚における逆方向性転換-サラサゴンベの研究例を中心に-」

要旨:性転換は、個体の繁殖成功を高めるための生活史戦術の1つである。一般に、♀から♂への性転換(雌性先熟)は一夫多妻社会で、♂から♀への性転換(雄性先熟)は一夫一妻社会で有利とされてきた。しかし、近年、これまで典型的な一夫多妻社会をもつ雌性先熟魚で♂から♀で性転換(逆方向性転換)する能力があることが明らかとなってきた。今回のセミナーでは、「なぜ一夫多妻魚で逆方向性転換が起こるのか?」(逆方向性転換の進化的有利性)という点に注目しながら、サラサゴンベの研究例を中心に、一夫多妻魚における逆方向性転換の研究を紹介したい。

 


第14回  1月23日 
 曽我部  篤(広島大院生物圏・学振PD)

 「辰年に知っておきたいヨウジウオ科魚類のことBest 3」

要旨:タツノオトシゴに代表されるヨウジウオ科魚類は、極域を除く世界中の水界におよそ320種が生息しており、雄が腹部または尾部にある育児嚢で卵を保護することで知られている。本科魚類では厳格な一夫一妻から一妻多夫、乱婚など様々な配偶パターンが報告されており、また一部の種では雌 に性的形質が発達 するなど、他の分類群では稀な特徴を有するため、性淘汰・配偶システム進化研 究におけるモデル生物群として注目されている。本発表ではヨウジウオ科魚類の進化生態研究における近年の発見と、ヨウジウオ科魚類にまつわる今日的な問題について、演者らによる関連研究を交えて紹 介する。

2011年 

第13回  11月 21日 

狩野賢司(東京学芸大学教育学部・教授)

「グッピーの雌によるCryptic choice(配偶以降の選択)」

要旨:グッピーは交尾・体内受精を行う卵胎生魚類であり、配偶者選択研究のモデル種の1つとなっている。これまで、どのような雄を配偶相手として選ぶかという配偶前の選択を中心に研究が行われてきたが、近年は交尾時、および交尾後の雌の選択に関心が寄せられている。配偶前に加えて、配偶以降に雌がどのような選択を行っているか、性的対立との関連も含めて紹介したい

 

 


第12回  7月 11日 

和田年史(鳥取県立博物館山陰海岸学習館・学芸員)

「カブトガニの保全に向けた取り組み  〜研究成果から言えること〜」

要旨:カブトガニは生活史を通して複数の沿岸環境(砂浜・干潟・藻場等)を必要とするため、沿岸開発の影響を受けて我が国では絶滅の危機に瀕している。福岡県津屋崎個体群においても、2005年から2010年にかけて産卵ペア数の著しい減少が確認された。また、超音波発信器を用いて海中での移動行動を追跡した結果、周年を通して小規模な湾内に依存する活動パターンが示された。本講演では、演者らのこれまでの研究成果を紹介し、カブトガニの保全に対するよりよい提言を考える。

 

 


第11回  6月 28日 

熊谷直喜(琉球大学熱生圏センター瀬底・PD)

「蓼食う虫」のつくりかた:海洋における宿主特異性の獲得と維持プロセスの特徴

要旨:特異な性質を持つ個体群・種はどうやって生じるのだろう?少なくとも生じた時はごく少数派であったはずの特異な性質が個体群・種レベルに伝播していく過程はどのようなものなのか?本発表では、大多数のジェネラリストと異なるような行動パターン、餌の好み、生息場所の選択性を獲得・維持する機構に迫りたい。研究対象として、ソフトコーラルの一種に専住するヨコエビに着目し、海洋環境の特徴と関連させて特異性の成立プロセスを検証する。まず宿主選択性の獲得に関わる要因を室内・野外の実験により明らかにする。次に、いかにして特異性が長期にわたって維持されうるかを野外実験と数理シミュレーションによってメタ個体群生態学の観点から解析する。

 

 


第10回  6月 8日 

名波 敦(西海区水産研究所石垣支所・主任研究員)

「フエダイ類の生態特性~資源管理を目指して~」

要旨:フエダイ類は、サンゴ礁域で重要な水産資源であり、適切な資源管理が望まれている。本発表では、アミメフエダイを中心に、フエダイ類の生態について紹介する。特に、社会構造と摂餌行動に着目し、フエダイ類の資源管理について、考察する。

 

 


第9回  4月 22日 

向 草世香  (JSTさきがけ研究員/長大水産/琉大熱生研)

「造礁サンゴの個体群動態:幼生保育型トゲサンゴの存続可能性解析」

要旨:1998年の大規模サンゴ白化現象によって、沖縄本島周辺のサンゴ群集は壊滅的 な打撃を受けた。サンゴ群集の回復は局所的に見られているが、幼生の分散距 離が短いトゲサンゴは、白化後、沖縄本島への加入がほとんどなく、個体群の 回復は確認されていない。本研究では慶良間諸島に現在も残るトゲサンゴ個体 群の存続可能性と、沖縄本島での回復可能性を推定した。慶良間諸島座間味島うるのさちの水深約3mのリーフ上に定点方形区(5×5 m)をもうけ、定期的な観察から個体の生存関数や成長率、部分死亡率、およ び幼生と破片の加入量を推定した。次に、個体ベースモデルを作成し、個体群 の動態を予測した。ここで、個体の生存や成長は推定した関数形に従って確率 的に決まるとした。解析の結果、うるのさちの個体群は緩やかな減少傾向にあり、20年後には消滅 の可能性が高いことが明らかとなった。また、裸地から個体群が回復するため には、継続的な幼生の大量加入が必要であったことから、沖縄本島では今後もトゲサンゴの回復は望めないと考えられる。さらに、個体群の再生を促すため に個体の移植を考えた場合でも、1度の移植では個体群は回復できないことが 明らかとなった。以上の結果をふまえて、沖縄・慶良間海域のトゲサンゴ個体 群の今後を議論する。

 

 


第8回 3月 1日 

新垣誠司(琉球大学熱生圏センター瀬底・産学官連携研究員)
「タイドプール魚類における空間ニッチ構造の解析 」

要旨:種の共存と群集構造の決定機構の解明は、群集生態学の中心的課題であり、ニッチ理論にもとづく群集形成概念を背景に、資源利用を軸とした研究が進められてきた。魚類にとって“タイドプール”は一時的な閉鎖環境であり、利用できる空間量が潮汐に同調して劇変するため、空間資源の重要度はより高いと考えられた。そこで、私はタイドプール魚類の空間資源利用と個体間相互作用に着目して研究を進めてきた。

 

 


第7回  1月21日 

松本 有記雄  (長大院生産研・博士後期課程2年  学振DC1)

「ロウソクギンポ・オスの配偶成功の偏りはなぜ生じるのか? ― メスの非独立型配偶者選択とオスのホルモンレベルに依存した繁殖サイクルの影響 ― 」

要旨:ロウソクギンポは潮間帯に生息する小型魚類で、オスが占有する産卵巣に複数のメスが訪問して産卵する縄張り訪問型複婚と呼ばれる配偶システムを持ち、オスが単独で卵を孵化までの約1週間保護する。これまでの研究で、発生段階初期の未発眼卵を保護するオスの配偶成功が、発生段階後期の発眼卵を保護するオスよりも高いことが分かっている(Matsumoto et al. 2011)。演者らは、このオスの配偶成功の偏りが生じるメカニズムの解明に、①メスが他のメスの配偶者選択を観察して同じオスを選択するmate-choice copying(コピー戦術)と、②オスのホルモンレベルに依存した繁殖サイクル(求愛Phaseと保護Phase)の2つの側面からアプローチした。本発表では、これらの結果に加えて、メスによるコピー戦術とオスの繫殖Phaseの適応的意義についても議論する。

 

 

2010年


第6回 12月16日 

八木光晴  (長大水産・高山研PD)

「Ontogenetic phase shifts in metabolism: links to development and anti-predator adaptation (代謝量の個体発生的相転移 ー 発育と抗捕食適応へのリンク)」

要旨:動物のエネルギー代謝量(生きていくために必要な単位時間当りのエネルギー量)と体重の関係は“サイズの生物学”として古くから研究されてきた。本研究は孵化直後からの成長に伴うエネルギー代謝量を調べ、この変化が様々な海産動物で、ある共通した関係になり、生残過程と密 接に関係している可能性を示す。この結果は、極めて小さな体重で生まれた個体が成長して何万倍も大きくなる過程において、生存競争に関わる系統を越えた統一的な代謝量-成長-生残 の相互関係の存在を示唆する。

 

 


第5回 4月21日 

松本 有記雄  (長大院生産研・博士後期課程2年  学振DC1)

「子の保護を行う種におけるCourtship phaseとParental phaseの進化要因の解明」

 

 


第4回 2月 2日 

向 草世香  (JSTさきがけ研究員/長大水産/琉大熱生)

「サンゴメタ集団の存続可能性と環境変動への応答予測」 

 


第3回 1月25日 

玉井玲子(琉球大学大学院理工 熱生研瀬底)
「座間味島うるのさちサンゴ個体群の動態解析」

 


第2回  1月17日 

兼子 隆士  (長大院生産研・博士前期課程2年)

「クモハゼ雄の代替繁殖戦術:スニーカー間競争が戦術転換に与える影響」 

 

 

2009年


第1回  11月17日 

竹垣 毅(長大水産・准教授)

「スウェーデン在外研究報告:Two types of sneaker males in the sand goby: potential for change in their tactics」

bottom of page